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一口大歌舞伎 二口目《変化舞踊》





 近所から漏れ聞こえる大音量のテレビの声にも初夏の趣が感じられる季節となりました。皆様には益々ご清祥の御事とお慶び申し上げます。

さて、「けも座」では当月も先月に引き続き、『一口大歌舞伎【ひとくちだいかぶき】』を開催致すこととなりました。

 これは歌舞伎作品の中から短い演目を選んで「ひとくちサイズ」の簡単な解説をするとともに、その作品の中で使われている演出などを紹介して、作品だけでなく《歌舞伎》自体の理解も深めようという企画でございます。
 
 ふた口目はなんと二本立て。『藤娘【ふじむすめ】』『鳥羽絵【とばえ】』をお送り致します。

 一本目は藤の花の時期には遅れてしまいましたが長唄舞踊の『藤娘』です。
 いまさら説明不要の人気作品ですが、じっくりと歌詞を読む機会はなかなかないのではないかということで取り上げました。
 続く『鳥羽絵』は少しマイナーながら、鼠が人間の男を口説く姿が印象的な楽しい作品です。


 さてこの二作品、共通点が少なくともふたつあります。

 ひとつはどちらも「絵」がテーマだということ。
 『鳥羽絵』は題名になっているのでわかると思いますが、今では「藤の精」として愛される『藤娘』も元々は「大津絵」という近江国(滋賀県)大津の特産品に描かれた「遊女」でした。

 そしてふたつめの共通点は、両方とも《変化舞踊【へんげぶよう】》という舞踊短編集の中の一編として誕生したということです。





◆《変化舞踊》=舞踊のノンストップMIX

 歌舞伎には《引き抜き》という衣装の仕掛けがあります。

 これは、あらかじめ細工した衣装を重ね着しておくことで、演技をしながら舞台上で一瞬にして衣装を変えるものです。
 芝居の場合は大抵一回、本性を偽っていた人物が正体を現す時などに使い、見た目がより重要となる舞踊では二度三度と引き抜いて衣装の色や柄を変えることでお客様の目を楽しませるのに使います。

 
 《変化舞踊》というのは、この《引き抜き》を利用して、趣向の異なる短い舞踊を次々と早変わりしながら連続して踊る作品のことです。
 江戸中期以降、特に軽快な舞踊が好まれるようになった文化~文政(1804~1830)にたくさんの作品が書かれたようですが、これの面白いところは《引き抜く》と同時に衣装だけではなく役柄まで変わるところです。

 “浦島太郎”として登場した役者が踊り終わると同時に《引き抜き》“乙姫”に変わる。また踊った後で《引き抜く》と今度は“漁師”に変わって大きな蛸と戯れる。蛸も一緒に《引き抜く》と漁師は中国の豪傑“関羽”に、大蛸の方は“馬”に変化する。
 そして最後は馬に跨って退場・・・といった具合です。(※これは説明するための例えで、こんな作品は実在しません)
 この場合、浦島太郎で出てきた時に全ての衣装を着込んでいるわけですから、重いし動きづらいし時間は長いしで演じる側は大変です。しかし観る側としては素直に興奮します。


 そしてそれだけでも十分に面白いと思うのですが、「雪月花の三変化」「四季折々の四変化」「干支の十二変化(!)」などテーマに沿って舞踊を並べたり、「きらびやかな傾城から半裸の坊主」「老女から髭もじゃの豪傑」に変わるなど《引き抜き》の効果を最大限に生かすために様々の工夫を凝らしていたようです。


 ちなみに『藤娘』は「大津絵尽くし」五変化の一番目。後には『座頭』という舞踊が続くのですが、その変わり目の見事なこと。

「藤娘が終わると、縫いぐるみの斑の犬が一匹出てきて、藤娘に飛びつく。藤娘がびっくりして飛びのく拍子に引き抜きで座頭の坊主に変わる。犬を打とうとして藤の枝を振り上げると手品の仕掛けで座頭の杖になる。その杖で犬を追い廻しながら花道へ行き、座頭のほどけた褌の端を犬がくわえる大津絵の絵の通りの見得」になる。
(『新板 舞踊手帳』古井戸秀夫著 新書館より抜粋)


 ひとつも隙がありません。



◆《変化舞踊》カムバック

 「藤娘」という役が登場し、現在も《変化舞踊》として演じられる『大津絵道成寺【おおつえどうじょうじ】』という作品もありますが、残念ながら《変化舞踊》として生まれた作品のほとんどが『藤娘』や『鳥羽絵』のように単品として上演されているのが現状です。
 芝居の復活上演のように、初演のやり方に則った《変化舞踊》の復活上演ももっと盛んに行って欲しいと思うのは贅沢でしょうか。
 特に『藤娘』は初演の時にセットだった舞踊が一通り、今も残っているようなので尚更そう思ってしまいます。



◆ちなみに・・・

 今回紹介する二作品のモチーフになっている「大津絵」と「鳥羽絵」はどちらも極端なデフォルメ表現が特徴で、江戸後期の浮世絵にも大きな影響を与えました。
 面白いことに「鳥羽絵」という名称の由来になったといわれる鳥羽僧正は、「大津絵」がその門前で盛んに売られ、現在も店が残る大津の三井寺(長等山園城寺)の僧だったそうです。
 それらを題材にした舞踊が同時期に江戸で作られて人気を得るというのは、世の中広いんだか狭いんだかわからない話ですね。




それでは《変化舞踊》から生まれた人気作『藤娘』『鳥羽絵』を併せてご覧ください!
*幕間はこちらへどうぞ。

平成廿三年六月吉日  毛毛座座元 けものはし


テーマ : 歌舞伎
ジャンル : 学問・文化・芸術

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